サスティナブルコラム
河内千恵さん×勝田小百合による
「超・自然免疫学とLPS」イベントレポート
[前編:免疫編]
- 自然免疫学の研究者・河内千恵さんと対談
長い歴史の中でも人間は、病原性細菌の感染に苦しめられてきました。ただ一方で、私たちは長い時間をかけて、細菌と持ちつ持たれつ共生するように進化しています。美と健康を追求する私たちアムリターラにとっても重要なテーマである「免疫」について、この度、自然免疫強化の研究に携わる河内千恵さん(自然免疫応用技研 代表)と、勝田小百合との対談イベントが実現しました。
今回のコラムでは、前編・後編に分けて対談の内容をご紹介します。
[ 前編:免疫編 ]
そもそも免疫とは? 自然免疫を高めるには?といった「免疫」について[ 後編:LPS編 ]
自然免疫力を育み、免疫システムの救世主といわれる「LPS(リポポリサッカライド)」について
(レポートは こちら )
- [前編:免疫編 ]
まずはここから。免疫について学ぶ 「免疫はとても広くて深いので、私が今日お話しするのはほんの一部なんですが、免疫について説明していきたいと思います」(河内さん)と前置きした上でスタート。免疫の役割は大きく分けて以下の2つがあります。
① 異物・不要物を見つけて排除すること
- 外部から侵入する病原菌・ウイルス
- 体内で発生するごみ(死細胞、変性タンパク質、癌細胞)
② 傷んだ箇所の修復
「免疫は[疫病(感染症)]から[免れる]と書きますが、それだけではなく健康を維持するシステムそのものです。この2つの役割を免疫がきちんと担ってくれていれば、私たちは健康を保つことができます」(河内さん)
どんな生物にも免疫は必ず備わっていますが、ヒトは「自然免疫」と「獲得免疫」の2つの免疫を持っています。この2つの免疫について、どのような働きをするのかウイルスの侵入を例に説明します。
ウイルスが体内に侵入する
最初に自然免疫が活動
マクロファージという細胞が戦う獲得免疫側に「異物が入ってきたぞ」
という情報を知らせる伝達を受けて獲得免疫のT細胞やB細胞が抗体を作る
一度抗体ができると異物を殺傷していく自然免疫、獲得免疫が戦うときに炎症が起きますが、免疫が正常であれば、ウイルスの排除が終わるとすみやかに炎症は収束していきます。その後に自然免疫が傷んだ箇所を収束させていくシステムです。
「覚えておいていただきたいのは、感染防御の場合は、自然免疫が動かないと獲得免疫も動かないということ。そして感染防御以外のもっと広義な免疫について、健康維持なども自然免疫が担っているということです」(河内さん)
「免疫というと、抗体を作る獲得免疫のほうが注目されがちですが、免疫の最前線で私たちの体を守ってくれているのは自然免疫なんですよね。自然免疫のマクロファージが体内をパトロールして、異物が侵入してきたときにパクパク食べてくれるので私は“頭脳派集団”と呼んでいます」(勝田)
[ マクロファージについて ]体のあらゆる場所にいて、死んだ細胞を食べて(貪食)処理してくれたり、掃除をしてくれたりする。
※図はマクロファージが微生物を貪食して廃棄物を排出しているところ。
- 免疫力をトレーニングするには?
自然免疫がしっかり機能していれば、獲得免疫の出る幕なく処理が終わる場合もあります。ただ免疫は加齢やストレスで弱まるので、常に免疫を鍛える(免疫を眠らせない)ことが重要です。「自然免疫の中心はマクロファージなので、マクロファージを訓練しておくことで、免疫を活性化させることに繋がります」(河内さん)
では、マクロファージを活性化するにはどうしたらいいのでしょうか? そのヒントは「細菌」の存在です。
地球上に細菌が生まれたのが、約38億年前のこと。哺乳類の出現は約2億年前で、人類にいたっては約20~30万年前です。これらが意味するのは、人類は常に細菌と共生するように進化しているということです。
よって、生きた細菌だけでなく「細菌成分」も免疫を活性化させるのに役立っています。細菌成分には、例えば酵母の「βグルカン」や乳酸菌の「ペプチドグリカン」、グラム陰性細菌の「LPS(リポポリサッカライド)」などがあります。
では、細胞細菌によるマクロファージ活性化の流れを説明します。
マクロファージの細胞壁にある
受容体(レセプター)に「細菌成分」が付着細胞の中でシグナル伝達が起きる
遺伝子が揺り動かされて、
マクロファージの機能が活性化
(自然免疫の活性化に繋がる)
「不思議だと思われるかもしれませんが、免疫は細菌と戦う役割もある一方で、細菌や細菌成分によってトレーニングもされているんです。生きている菌は危険性はありますが、あまりにも除菌や殺菌しすぎると、免疫力が落ちてくる可能性はあります」(河内さん)
- アレルギーも免疫が関係している
アレルギーというのは、主として「獲得免疫(抗体を作る免疫)」の過剰反応によるものです。そのため本来抗体を作らなくてもいい花粉や物質に対して抗体ができ、それを排除するためにくしゃみや痒みが出る…というのがアレルギーです。
「2002年のミュンヘン大学の研究によると、都会の子どもと田舎の子どもを比べると、都会の子どものほうがアレルギーが多いことが分かりました。そして互いの生活環境や食事を徹底的に比較すると、細菌成分である「エンドトキシン」という物質が環境中に多い子どもの方がアレルギーになりにくいことが分かりました」(河内さん)
都会の子どものほうがアレルギーが多いのはなぜ?
都会の子どもは細菌成分に曝露される機会が少ない
自然免疫が活性化されない
免疫バランスが崩れて獲得免疫が過剰になる
アレルギー体質を引き起こす
清潔な社会がアレルギーを生んだ
「エンドドキシン」というのは、グラム陰性細菌であるLPS(リポポリサッカライド)の別名です。「要するに都会の子どもは細菌成分に曝露される機会が少ないということです。マクロファージは細菌成分によって活性化されるので、細菌成分が少ないと活性化されません。そうすると免疫バランスが崩れることに繋がります。清潔な社会がアレルギーを生んだとも言えますね」(河内さん)
「私は、顔を洗いすぎるのも肌の常在菌を根こそぎ奪ってしまうので止めたほうがいいと思っています。化粧品に防腐剤を入れたくないのも、肌に棲む常在菌を弱らせたくないからです。もちろん化粧品の品質は保たなくてはならないのですが、防腐剤が入り過ぎているものを肌に塗るのは避けたくて。菌が喜ぶものを塗りたいと思って商品開発をしています」(勝田)
- 免疫についてまとめ&強い粘膜のつくり方
ここまでの話をまとめると、以下のようになります。
- 免疫とは、健康を維持するシステムである
- 免疫には、自然免疫と獲得免疫がある
- 自然免疫の中心的細胞はマクロファージである
- マクロファージ/自然免疫は細菌成分によって活性化される
- 細菌成分の低下で自然免疫が低下し、さまざまな疾患につながる
自然免疫はアレルギーだけでなく、私たちの健康のベースにあるものです。そのため自然免疫が低下するとアレルギーだけでなくさまざまな疾患に繋がる場合があります。
前編の最後に、アンチエイジングの鬼・勝田小百合による「強い粘膜のつくり方」をご紹介します。勝田曰く「自然免疫の前に“粘膜”がすごく大事だと思っています。ウイルスはまずは喉や鼻の粘膜を突破して体内に入り込みます。強い粘膜にしておくことは、ウイルスの侵入をできるだけ防ぐことに繋がります」とのこと。ぜひ実践してみてください!
βカロテンやαカロテンが含まれる食材を摂取するにんじん、かぼちゃ、ほうれん草、モロヘイヤ、春菊、ニラ、グリーンピースなど。カロテンは油に溶けやすいので油で炒めるのがおすすめです。多糖類が含まれる食材を摂取する多糖類とは、ヤマイモ、里芋、オクラ、なめこ、モロヘイヤ、蓮根などに含まれるネバネバの栄養素です。これらのネバネバ成分は熱に弱い傾向があるので、できるなら加熱しないで摂取するのがおすすめです。また水溶性のため、調理した場合は汁ごと食べるようにしましょう。オメガ3脂肪酸を摂取する良質な油を摂取することが免疫強化に繋がります。特にオメガ3脂肪酸は、粘膜の健康を保つのに役立つ栄養素です。唾液の質を高める唾液には「IgA」という物質が含まれていて、ウイルス防御のために働いてくれます。緑茶に含まれるエピガロカテキンというポリフェノールがIgAを増やすため、60℃ほどのぬるめのお湯で淹れた緑茶を飲むのもおすすめです。[ 後編:LPS編 ] は こちら
- 河内千恵(こうち・ちえ)さん
自然免疫応用技研株式会社 代表取締役社長立命館大学理工学部化学科卒業後、広島大学大学院工学研究科・博士課程修了(工学博士)。ファイザー製薬(株)、日本学術振興会・がん特別研究員、帝京大学生物工学研究センター・助手を経て、2006年から自然免疫応用技研株式会社代表取締役。発酵分野の酵母の遺伝育種の研究からスタートし、抗癌作用に関する研究に携わったほか、1989年からは杣源一郎(そま・げんいちろう)博士とともに、マクロファージの機能解明の一環として膜結合型TNFの機能に関する研究、およびグラム陰性細菌LPSの生理的作用解明と実用化研究に取り組み、現在に至る。