サスティナブルコラム
河内千恵さん×勝田小百合による
「超・自然免疫学とLPS」イベントレポート
[後編:LPS編]
- [後編:LPS編]
免疫力の最前線、LPSを学ぶ! 2024年9月、自然免疫強化の研究に携わる河内千恵さん(自然免疫応用技研 代表)と、勝田小百合との対談イベントが実現しました。イベントの前半は「免疫」について(レポートは こちら )、そして後半は河内さんの専門分野でもある「LPS(リポポリサッカライド)」についてお話を伺いました。その様子をレポートします。
LPS(リポポリサッカライド)とは?
LPSはグラム陰性細菌という細菌が持つ成分のことです。
細菌の一番外側に埋め込まれているのがLPSです。
細菌は土壌や植物に存在しているため、細菌由来の成分であるLPSも食用植物に付着しています。
「LPSは健康に良いとされる食用植物や、あと海の中は農薬がないので、メカブやワカメにもLPSが含まれています。お米だと玄米の糠の部分にLPSは含まれているので、白米より玄米のほうが多いです」(河内さん)
- LPSと免疫の関係
前編で「自然免疫系の中心であるマクロファージは細菌細胞によって活性化される」と説明しましたが、その細菌成分の一つが「LPS(リポポリサッカライド)」です。
では具体的にLPSの作用メカニズムを解説します。細胞が持っているTLR4受容体(レセプター)に
LPSが結合複雑なシグナル伝達により、遺伝子が揺り動かされる
(細胞の機能を活性化)TLR4受容体はさまざまな細胞が出していますが、特にマクロファージは数多くのTLR4受容体を出しているため、LPSによってよく活性化されます。
自然免疫系の中心であるマクロファージの重要性については前編でも述べた通り、ウイルスや死細胞、病原性細菌、がん細胞といったものを食べて体内を掃除してくれる細胞です。つまり、健康に直結する機能をマクロファージが担っています。そのためマクロファージを活性化するLPSも健康維持に貢献していると言えます。
「マクロファージを活性化する物質というのはLPSだけではありません。例えば酵母の成分や、乳酸菌の成分もマクロファージを活性化しますが、活性力が最も強力なのはLPSだと言っていいと思います」(河内さん)
ですが、覚えておいてほしい点が一つあります。「経口で摂取したLPSは吸収されない」ということです。LPSは食べたときに吸収されるわけではなく、「粘膜にいる細胞」にアプローチします。経口で摂取したLPSは、口腔や腸などの粘膜にいる細胞を活性化して、それにより「抗菌物質産生」や「異物貪食の増強」などが起きます。
免疫力が肌の美しさを左右する
「免疫と肌がどう関係するのか、ピンとこない方もいるかもしれません。ですが、肌の中で古くなった細胞や老廃物の除去というのは免疫の仕事なんです」(河内さん)
さらに細胞に「増えなさい」とシグナルを与えることや、熱や紫外線によって傷ついた皮膚を修復するのも免疫の仕事です。そのため肌の美しさと肌の免疫力とは密接に関係しています。
イベントでは、LPSの基本的な説明に加えて、LPSのすぐれた働きが分かるさまざまなエビデンスもご紹介いただきました。LPSを「経口摂取した場合」のエビデンスをはじめ、参加者の多くの方が熱心に耳を傾けたであろう「肌に塗った場合」のエビデンスもいくつもご紹介いただきました。
LPSについて、このコラムで記したことはほんの一部です。河内さんが代表を務める自然免疫応用技研のサイトもご覧いただくと、LPSの研究レポートなどを公開しているのでさらに深くLPSを知ることができます。ぜひご覧ください。
- 河内千恵(こうち・ちえ)さん
自然免疫応用技研株式会社 代表取締役社長立命館大学理工学部化学科卒業後、広島大学大学院工学研究科・博士課程修了(工学博士)。ファイザー製薬(株)、日本学術振興会・がん特別研究員、帝京大学生物工学研究センター・助手を経て、2006年から自然免疫応用技研株式会社代表取締役。発酵分野の酵母の遺伝育種の研究からスタートし、抗癌作用に関する研究に携わったほか、1989年からは杣源一郎(そま・げんいちろう)博士とともに、マクロファージの機能解明の一環として膜結合型TNFの機能に関する研究、およびグラム陰性細菌LPSの生理的作用解明と実用化研究に取り組み、現在に至る。